ここは恵方

飼育者の思い

最終更新日:2006年4月

私はここで飼い主に向けての呼びかけを続けてきました。私の視点は飼い主をターゲットにしたものです。が、もしも、獣医師の皆さんがこのサイトを訪れてくれるならば、伝えたいことがあります。獣医師に限らず、動物病院で動物に接する全ての職業の方々に意識していただきたいことです。

私が今飼っているのはハムスターですが、「ハムスター」という言葉を他の動物に置き換えていただければ、どんなペットについても言えることです。

  1. 自分自身を知る
  2. ペットを知る
  3. 飼い主を知る
  4. 意志の疎通を図る
  5. 病院の方針を飼い主に提示する
  6. それぞれの立場を尊重し違う視野を持つ者と交流する
  7. 後輩には教育を
  8. 共に世界を広げましょう

◆自分自身を知る―――自分の技量を把握して

自分のレベルがどの程度かは、多くの同業者と交流して自らを振り返らなければわかりません。どうか、井の中の蛙にならないでください。己を知らない獣医師が一番危険なのです。飼い主とトラブルを起こすのも多くはこのタイプです。私たちが警戒するのは獣医師が「知らない」ことではなく、「知らないのにその自覚がない」ことです。

自信や経験のない診療に関しては、飼い主にそう伝えてください。何ができて何ができないのか。どの程度の治療までならできるのか。認識していますか?

情報さえ与えられれば私たちは、リスクを承知の上でそこで診てもらうか、他を当たるか選ぶことができます。飼い主と獣医師のミスマッチほど悲しいものはありません。もしも何かあった場合、そこでの意志の疎通がなければトラブルに発展します。しかし、飼い主自らが決めたことであって病院側が手を尽くしてくれたのが分かれば大きなトラブルにはなりません。そのためにも、自身の技量は相対化して認識していただきたいと思います。

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◆ペットを知る―――動物にも感情があり、個性がある

「診療する」と言った以上は、その時点からでもいいからとにかくその動物について勉強してください。最低限の取り扱い注意事項くらいは知った上でペットに触るのが当然の責務だと思います。

どうか、基礎知識もなしに動物に触らないでください。特に、エキゾチックペットの場合は、扱い方を正しく認識していない人間が触ることはそのまま「死」を意味します。大きな動物なら「ストレス」で済むことも、生態系の中で弱者である動物たちには死をもたらします。それは私の遭遇した事故を見てもおわかりでしょう。うさぎの扱いを知らない獣医師に不用意に触られたために、診察台の上で突然死してしまううさぎも多いのです。

また、情報は適切な情報源から正確にインプットしてください。さらに、個体間のばらつきが大きいことも忘れないでください。

同じゴールデンハムスターでも心身の状態には大きな個体差があります。ですから、「ゴールデンハムスターは人間に触られるのを好む」などという誤った情報を鵜呑みにしてその通りに扱おうとするのは、危険極まりない行為です。彼らがいかに繊細で個体差の大きい生物であるかは、長い時間を共に過ごしてみないとわからないものです。

事故を起こした獣医師のように、箱に隠れたハムスターを診ようとしていきなり箱に手を突っ込むようなド素人以下の人間を敬うほど、飼い主はバカではありません。ハムスター飼育初心者でもそんなことはしません。噛まれるのは当然です。何よりも問題なのは、その獣医師が自分をエキゾチックペットに詳しいと勘違いし、飼い主の言葉を聞き入れなかったことです。

そして、動物にも感情があります。ただそれを伝える術がないだけなのです。体の構造や病気のメカニズムだけでなく、それも知ってほしいのです。

真剣に動物を飼っている人間ならみんなこう思っています。あの小さなハムスターでさえ、ムッとしたり喜んだりやきもちを焼いたり、時には飼い主に八つ当たりもするし、悪さをして怒られるとご機嫌取りに甘えてきたりもします。この言葉を読んで「くだらない」と思う獣医師に私は関わり合いたくありません。そのような人と関わるということは、すなわち、トラブルに巻き込まれるということだからです。ペットが傷つくということだからです。

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◆飼い主を知る―――「心」あっての獣医療

私たちがまず求めるのは基礎的な診療の正確さ、そして「心」です。もちろんそれに高度な知識や技術などが付随すれば言うことはありませんが、何よりも心があることを求める飼い主がほとんどです。その仔を何とかして助けたいと思ってくれること、それが第一。飼い主自身が日々学んでいる場合は、獣医師には自分以上のものを求めます。でも、「心」を忘れて技術に走る獣医師は信頼できません。

また、たとえ高度な技術や知識がなくても、それを自覚した上で何とかその動物を助けたいと思ってくれる獣医師であれば、私たちは信頼します。実際、ハムスターには詳しくない獣医師と二人三脚で学びながら飼育してきた飼い主だっているのです。知識や技術は、向上心あってこそ、後から付いてくるものだと思います。

それに、打つ手がなくなっても獣医師に話を聞いてもらえるだけで飼い主は救われるのです。我が仔の事を飼い主と同じように真剣に考えてくれる獣医師の存在そのものが、飼い主にとっては最高の治療法なのです。

たとえ獣医師の目には「大切な命」と写らない生物であっても、飼い主がそう思って連れてくる限り、それは「大切な命」です。プロとして、飼い主の意識をくみ取り、適切な扱いをしてください。私たちは、自分のペットを「ひとつの生命」として扱ってもらうことを望んでいます。どんなにちっぽけでも、どんなに頭が悪くても、どんなに安い動物でも、飼い主にとってはかけがえのない存在です。

私たちは、自分のペットを「物」扱いする人間を瞬時に見分けます。言葉を発しなくても扱いひとつ見ればわかります。ハムスターが嫌いなら診療を断ってください。でなければお互いに不幸です。ペットとして飼われているハムスターは実験動物ではないのです。自分のペットを見下す獣医師には指一本触れてほしくありません。自分のペットを侮辱された上に命に関わるようなトラブルが起こったら、私たちは容赦しません。とことん責任を追及します。

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◆意志の疎通を図る―――「心」の伝え方

そして、その「心」を伝えるために、飼い主に話しかけてください。私たちはコミュニケーションを望んでいます。でも、なかなか積極的に話しかけられないのです。疑問に思うことがあっても、言葉を飲み込んでしまうのです。ほんの一声でもいいのです。「聞きたいことがあったら遠慮なく言ってください」という言葉に背中を押されて話し始めることだって、あり得ます。

が、だからといってマシンガンのように息つく暇なく説明してはいけません。なぜなら、飼い主が「威圧的」と受け取ってしまう可能性があるからです(ワガママですね^^;)。せっかくの熱意が逆にとられては意味がありません。自分が早口だと思う方は、一言話す度に息を吸って吐いて、それから次の言葉を発するようにしてみてください。

それから、初診時に説明したことは二度目の診察でもう一度繰り返しておくと、「そんなこと聞いてない」と言われることが減ると思います。経験を積んだ飼い主でさえ、大病や経験のない疾患には動揺します。耳にしていても頭に残らないのです。繰り返して説明してもらえれば、初診時には気付かなかったことにも思い至りありがたいのです。

全力を尽くしたにもかかわらず患畜が悪い状況に陥ってしまったら…全てをきちんと伝えてください。その時、力んでしまって自分の考えを押し付けることのないようご注意を。十分なコミュニケーションをとった上で、それでも飼い主が納得しない場合は次の2つが考えられます。

  1. 飼い主の疑問に答えていない、飼い主が必要とする言葉・内容を伝えていない
  2. 飼い主自身に事実を受け止める力がなく、他人に八つ当たりしている

1なら努力を続けましょう。もしかしたら飼い主自身が「本当は何を聞きたいのか」把握しきれていないかもしれません。2ならやるだけやったら諦めましょう。世の中にはそういう人もいますから。そして、そういう人もいるのだと認識した上で、今後からはどう対処するのが良いのかを考える機会にしてください。

もし飼い主の気持ちが分からなくなったら、Yahoo掲示板などで飼い主の広い裾野を覗いてみるのも良いと思います。飼い主の様々な意識が見られます。或いは、愛好家のサイトを訪れてみてください。偏った世界と思われるかもしれませんが、みなさんが病院で関わる飼い主の何割かは正にこういう人達なのです。相手を理解する手掛かりになるかもしれません。

でも、本当は診療で関わっている飼い主さんとじっくり話をするのが一番の近道であり、誤解のない方法なんですよ。恐がらないで話しかけてみませんか。

動物病院の仕事というのは結局は、動物を通した人間との係わり合いが最重要業務です。その人間を避けてしまっては仕事の意味を成しません。話したいと思っている飼い主がここにもいます。動物だけでなくぜひともヒトとも向き合って、より良い関係を築いていきましょう。

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◆病院の方針を飼い主に提示する―――病院の価値観に合った飼い主に来院してもらう

飼い主が獣医師に求めるものは様々です。私のような人間もいれば、全く違う価値観を持った人間もいます。診療に専門性を求める飼い主ばかりではないのが現実です。技術の進歩により、治療法の選択肢も増えました。飼い主はまず、治療をするか否か、するとしたらどこまでやるか、決めなければなりません。重大な選択をする重みに耐えられず、それを他人(獣医師)に託そうとする飼い主だっています。

飼い主にもレベル・タイプとも色々あります。同様に、獣医師にも色々あると思います。何の知識も得ようとしない飼い主なら、どんな獣医師でも構わないのかもしれません。でも、そうでない飼い主だって沢山いるのです。自ら学んでいると自負する飼い主の、獣医師を見る目は厳しいことを知ってください。

ペットを飼う人の裾野が広がっている現状では、飼い主の極分化もさらに進むと考えられます。全ての飼い主の要望に応えることは不可能です。「診療拒否と獣医師の責務について」でも述べた通り、今後はさらに診療項目が細分化し専門化が進むであろうことをも考慮すると、ご自分の病院がどこを目指していくのか、どの層の飼い主をターゲットにするのかを視野に入れて、診療内容を絞っていくといいかもしれません。何でも気軽に相談できるホームドクターを目指すのか、専門性の高い(診療内容の幅は狭い)専門医を目指すのか、あるいはまた違う道を目指すのか。。。

そして、それが決まったら是非とも飼い主に向けて情報発信していただきたいと思います。

初対面の飼い主に対してその人がペットの治療にどのレベルを求めているのかを判別するのは、無理な話だと思います。ですから、飼い主が病院を選ぶ時点でその病院の特色などといった情報が得られれば、ミスマッチも減ってくるのではないでしょうか。安さを追求する飼い主には安さが売りの病院を、高度な治療を望む飼い主には専門性の高い病院を、ちょくちょく行けるかかりつけを望む飼い主にはそれに適した病院を、というように。そのためには病院側からの情報発信が必要なのです。

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◆それぞれの立場を尊重し違う視野を持つ者と交流する―――それぞれの立場にそれぞれの視点が

愛好家のサイトでは、貴重な体験談が豊富に流通しています。私たちの知識は経験から生まれた実践的なものです。手の施しようがないと言われたペットが最期の時を迎えるまで、いかに苦痛を和らげてやれるか、いかに自分らしく残された時間を過ごせるか、まるで人間の終末医療のようなことを私たちは真剣に考えています。老ハムスターの介護法や新生仔の人工保育法などは文献に載っていないはずです。病院で原因不明と言われた症状でも、同じ症状に苦しんだ経験者からアドバイスをもらって飼育を続けることができます。

さらには、繁殖の知識に関してはブリーダーにかなうものはいません。ブリーダーにも色々いますが、愛玩動物の生と死を正面から受け止めて学び続けるブリーダーは、学術的な知識に加え経験学的見解を持っています。「文献の記述はこうだが、経験上から言えば少し違う」というものです。彼らがどれだけ真剣に学んでいるかは、Hamster Breeding Guideを読めば分かります。

獣医師の持つ獣医療技術・知識と、飼育者やブリーダーが持つ飼育や繁殖のための技術・知識が相互に交流すれば、素晴らしい情報網ができあがるのではないでしょうか。それを実現しようとしているのがエキゾチックアニマルの獣医学情報ネットワーク(VEIN)です。ここで詳しくは言いませんが、興味のある方は行ってみてください。

どちらが上とか下とかそんな事ではなく、立場の違う人達がそれぞれの持つ情報を尊重した上で共有し、協力してペットの生活向上につなげられたらいいなぁと思います。

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◆後輩には教育を―――職業人として

それから、これは大きなお世話かもしれませんが、新人獣医師には教育を施してやってください。これは獣医師の世界のことではありませんが、どんな職場でも共通だと思います。私は、希望に燃えて持ち場に着いた新人達が、何の教育も受けられず放任され、先輩からのアドバイスさえない状況の中でやる気を失っていく姿や自分を勘違いしてしまう姿を沢山見てきました。

即戦力というのは、基礎教育の上に実務経験を積んで初めて得られるものです。実務経験のない新人がOJT(On the Job Training=実務をこなしながら技術や知識をものにする教育法)を行うのは素晴らしいことです。ですが、そのためには第三者の目が必要なのです。間違いは速やかに指摘し、トラブルがあればサポートに入る人間が絶対必要なのです。

さらに、その大前提として、職場の理念や理想・持つべき倫理観といったものを言葉で伝えてやってください。どんな素晴らしい理念も言わなければ分かりません。以心伝心の関係になるまでには相当の時間がかかるものですから。

雇用者と被雇用者がいる限り、動物病院という所は小さいながらも組織であることに変わりありません。組織としての教育がなされない病院は、獣医師個人によるレベルの差が激しくて、当たり外れの大きい病院ということになります。そんな病院は(外れが)恐ろしくてとても行けません。人間ですから得手不得手があるのは当然ですし、個人差があるのも当然です。しかし教育によって最低ラインをある程度揃えることはできるのです。即戦力ばかり求めて人材育成を放棄してしまった今の企業のようにはならないでいただきたいと、心から思います。

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共に世界を広げよう

最後におまけの提案です。経営上の悩みであれば自営業仲間に、雇われの身の悩みであれば会社勤めをする仲間に。狭い世界に閉じこもりがちな職種だからこそ、職種や業種を問わず交流する方が良いと思います。「進路は違うが大学の同級生」などというレベルではなく、全く違う世界で生きてきた人達の話を聞いてみませんか。別の世界から見てもらうと自分のいる位置もはっきりするし、思いがけない解決法も見つかることがありますからね。

もしも、私の考え方に共感してくださる獣医療関係者の方々とどこかで出会えたら…心の中でそっと握手しましょう。これからの関係を積み重ねていくために沢山話をしましょう。私達はそれまでに飼い主としての自分を磨いておきますから、皆さんも職業人としての自分を磨いておいてくださいね。でも、もしかしたら、動物とは全く関係ない世界で主客逆の立場でお会いするかもしれませんね。どこかでお会いできる日を楽しみにしています。

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